"競技かるた"に関する私的「かるた」論
番外編
競技かるたの本
〜平成の刊行物〜
Hitoshi Takano Aug/2020
5月から3か月連続で、黒岩涙香氏の「かるた早取秘伝」、團野朗月氏の「最新かるた競技秘訣」、
夏目延雄氏の「百人一首の取り方」を紹介してきた。
明治から昭和にかけての流れを見ていただくには、いい材料であると思う。
競技かるたの紹介や、技術論等は、百人一首自体の歌の解説本などの最後に加えられることが多く、それを目にしたことがある方も多いことだろう。
しかし、一冊を歌の解説とは別に取り方の技術などに特化して刊行されているものを目にする機会は、昭和のかるた取りである私にとってもあまりなかった。
私が、昭和のころ合いによく目にしたのはいわゆる「百人一首の謎」に関する本である。織田正吉氏や林直道氏の著作などは皆さんもご存じなのではないだろうか。
では、平成以降にはどのようなものがあるだろうか。
私の手許にあるものを紹介しよう。
おそらく、現在も入手可能な本であるので、内容については記載しないので、興味のある方は、ぜひ入手してお読みいただきたい。
伊藤氏のものは「ちはやふる」ブーム以前のものであるが、その他は「ちはやふる」以後のものである。
発行月をみると、正月のいわゆる「かるたシーズン」を意識した時期であることがわかる。
上記の3冊は、男性の著作・監修の本である。著者、監修者の紹介と発行社と発行年月を記しておこう。
伊藤孝男氏は、第1回選抜大会優勝者で、愛知県の重鎮と紹介してもよろしいかと思う。上記の書籍は、思文閣出版から2007年11月17日に発行されている。
田口貴志氏は、準名人になったこともある暁星高校の教諭である。高校選手権で暁星高校の9連覇を指導した。上記の書籍は、コーエーテクモゲームスから2012年12月25日に初版が出ている。
岸田諭氏は、名人位を3期つとめた選手。上記の書籍は、メイツ出版から2016年12月5日に第1版第1刷が刊行されている。
伊藤氏の著作には、かるた選手の紹介もあり、個性的なかるた選手の集まるかるた界の紹介にもなっており、技術論以外の面でも楽しめる構成になっている。
慶應関係者も文中に登場するので、慶應かるた会の部室にもあったと思うので、慶應の会員の方には読んでみてほしい。
こちらの3冊は女性の著作・監修の本である。上記と同様に著者、監修者の紹介と発行社と発行年月を記しておこう。
渡辺令恵氏は、クイーン位11期の永世クイーン。上記の書籍は、メイツ出版から2012年11月5日に第1版第1刷が刊行されている
楠木早紀氏は、クイーン位10期の永世クイーン。史上最年少クイーンの記録を持つ。上記の書籍は、PHP新書(PHP研究所発行)で、第一版第一刷は2013年1月7日と奥付にある。
坪田翼氏は、クイーン位を2期つとめた選手。上記の書籍は、ポプラ社から、2017年11月に第1刷が発行された。
第1刷とか第一刷とか、記載の数字が漢数字だったりアラビア数字(表現が古い?算用数字のほうがとおりがいいかもしれない)だったりするが、これは書籍の奥付の記載をそのまま使ったためである。
楠木氏のものはタイトルが「瞬間の記憶力」であり、サブタイトルに「競技かるたクイーンのメンタル術」とある。
技術論というよりも「記憶」や「メンタル」という心理学的側面からの興味で読んでいただいてもよいだろう。
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初版 |
改訂版 |
こちらの2冊は、私の著作である。基本的に中身はほぼ同じだが、改訂版にだけ掲載した内容もある。
「ちはやふる」ブームのはるか前の発行であり、商業ベースではなく自費出版である。
初版は1993年3月の発行で、改訂版は1994年8月である。どちらも200冊の発行だった。初版の200冊がほぼ一年半で完売した背景には、やはり、初心者から初段を目指すくらいの選手にこうした入門書を兼ねた技術論・戦術論の必要があったということではないだろうか。
内容は、すでに私のウエブサイトにあがっているので、 「歌留多攷格」と検索いただいてもよいし、リンクをクリックしていただいても読むことができる。
同書と、ウエブサイトに掲載した 競技かるたの要諦“十箇条”を読んでいただければ、私の競技かるた論の大筋がつかめるものと思う。
もちろん、それ以外にも私のウエブサイトではいろいろと技術論や戦術論・戦略論については書き込んでいるのでご覧いただきたい。特に「私的かるた論」にまとまっている。
最近は、インターネット環境が整い、ツイッターなどでも「かるた論」に花が咲く。粂原名人も持論を有料のシステムで紹介している。
強い選手の理論も含め、競技を学び、強くなろうとする選手にはいろいろな教材が揃っている時代だと言っていいだろう。
私としても、こういう時代の到来は大いに歓迎であるし、もっと多くの名選手に発表してもらいたいと思っている。
一般社団法人全日本かるた協会が発行している「かるた展望」などもバックナンバーを読むと時に名選手の「かるた論」が記載されていて、大変参考になる。
インターネットなどが普及していない時代に、「かるた展望」が果たした役割は、非常に大きいと思う次第である。
さて、いろいろ紹介してきたが、お読みになる皆さんにはぜひ注意していただきたいことがある。
それは、これらの本のそれぞれの選手の成功体験は、あくまで、その選手の成功体験にすぎないということである。他の選手の成功体験がそのまま自分にあてはまるとは限らない。
とはいえ、先人たちの知恵を学び、それによって練習するのは、上達への近道であることは間違いないだろう。だが、鵜呑みにするのではなく、常にこれはどういう意味だろう。
自分には合っているのだろうかと自問自答してほしい。そして自分が納得がいったものは、自分の技術にする。実戦などの経験で「腑に落ちた」ものは、自分の理論にする。
このような考え方で、学んでほしいと思う。
競技かるたの理論は、いつでも「自由」なのである。
自分独自の自由な発想が、競技全体の底上げを担うのだと思う。
他人の意見に学ぶことは大事だが、それに縛られることはない。学んでいく過程では、「守破離」を経験することが必要なのだ。
自分自身の成功体験を積んでいってほしい。そして、それが、体系的にまとめられるならば、ぜひ、自分なりの理論をなんらかの形で発表してほしいと思う。
私が、紹介した先人たちのように。
本文中の競技かるたに関する用語・用字において、一般社団法人全日本かるた協会で通常使用する表記と異なる表記がありますが、ご了承ください。
Auther
高野 仁
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