新・後輩への手紙(IX)

Hitoshi Takano JUN/2011

デビュー戦を迎える皆さんへ


前略  6月になりました。4月に入会し、競技かるたを学び始めた皆さんも、 そろそろ大会に出場することになりますね。まずは、6月12日(日)の杉並大会が デビュー戦という方も多いのではないでしょうか?
 そこで、デビュー戦を迎えるにあたっての心構えを皆さんに少々お伝えしようかと 思います。

マナーを守りましょう

 実は、この件は、「続・後輩への手紙(VII)」ですでに 書いているので参照してください。
 何度も書かれるということは、それだけ重要なことだからです。
 マナーについての各論は、上記のリンクをクリックして読んでいただくとして、 なぜ、マナーを守ることが大事かを説明します。
 競技かるたは、ひとりでは決してできません。対戦相手がいて、読手がいて、試合を 運営する方がいて、いろいろな人が様々にその役割をになって成立しているものです。 人と人が関わる中には、当然それ相応の礼儀作法やマナーというものがあって、円滑な 関係を築けるのです。対戦相手はたしかに勝ち負けを競う相手です。ですから、そこに 闘志を剥き出しにすることもあるでしょう。しかし、闘志を剥き出しにしたとしても、 対戦相手あってこそ、競技が成立するわけですし、対戦相手から学ぶことも多々あり ます。対戦相手には闘志をストレートにぶつけていったとしても、対戦者との関わり においては、自ずから競技者としての敬意を払うことを怠ってはいけません。
 この敬意の表れが、マナーであり、礼儀作法です。
 みなさんは、個々のプレイヤーとしてだけ見られるのではありません。「慶應かる た会」に所属しているプレイヤーとして見られます。「慶應かるた会」に所属して いる以上、好むと好まざるとによらず、他会の方々からは「慶應かるた会」の一員 として見られ、皆さんの一挙手一投足は「慶應かるた会」の一選手として、上級生 の指導の結果としてそこに現れてきているように判断されます。
 また、場合によっては「慶應義塾大学」の学生という見られ方をすることもあるかも しれません。
 その時に「慶應かるた会」の選手はマナーができていないとか、慶應義塾大学の 学生は行儀が悪いといわれてしまっては、個人としてだけではなく、組織としての 評価につながる出来事になってしまうのです。
 個人のことなんだからそんな見方をするほうがおかしいという反論をいう方もいる かもしれませんが、これが世の中一般の見方なのです。みなさんは、個人として 「かるた」を取っているだけではなく、組織を背負って「かるた」を取っているので す。
 ぜひ、恥ずかしくないマナー、礼儀作法、試合態度等を心がけてください。

定位置表や決まり字表の持込はやめましょう

 さすがに5月のこの段階で練習の時に決まり字表は持ち込んでいませんが、定位置表 を置いての練習の方を多く見受けます。
 デビュー戦までに、こうした表にたよらない練習をしてください。たとえば、デビュー 戦の1週間前の練習から、表を手元に置かずに練習をすると決断し、実行してみてくださ い。
理由はいわずもがなかと思いますが、私の感覚では、試合にデビューするということは、 こうしたものに頼らずに試合ができるからデビューするのだという基準によります。
 これは、別に公式に決まっていることでもなくE級以下の試合などでは、かまわないこと になっているケースも多々あるかと思います。
 それでも、持ち込みはやめましょう。
 不安だというかもしれませんが、あやふやであっとしても、もう肝をすえて、臨機応変 に対応するしかありません。下の句をみて、上の句が出てこなかったら、その札は相手に 取ってもらえばいいのです。そして、自分の定位置がわからなくなったら、適当に置けば いいのです。
 皆さんの定位置のこだわりをみていると、当該札がある札の内側にくるか外側にくるか を厳密に定位置表で確認しているようですが、わからなくなったらアバウトに置けばいいの です。あとで調べたら逆だったということもあるかもしれませんが、逆に置いて取れた ことで、逆で固定することになるかもしれないのです。
 定位置とはいいますが、定位置も自分の試合スタイルとともに変化していくものなので す。(参照:定位置の話)少しくらいの違いは気にする 必要はありません。
 それでも、細かく設定したのにわからないからそこら辺というので置くのは嫌だというの であれば、とりあえず、上段の中央にでも置いておけばよいのです。
 定位置を思い出すのにこだわって、それが集中力の欠如につながるのであれば、こだわり は捨てて、それよりも試合に集中したほうがいいのですから…。

勝敗が決するまでは集中しましょう

 あたりまえのことですが、実はこれが難しいのです。リードして安心し、枚差をはなさ れて、あきらめたりがっかりしたりするのが、人のココロというものです。
 でも、それは、自分もそうであるかわりに相手も同じなのです。
 上級者になれば、そういう心のコントロールを意図的にするようにもなりますが、 初心者のクラスでは、やはり、感情の変化が試合の中に影響を与える度合いは大きいと 思います。
 「かるたの要諦」 第3条にも書いてありますが、競技かるたは自陣にある札を減らす競技です。取った 札の枚数を競う競技ではありません。したがって、お手つきをすると、自陣の札を 増やしてしまうことになり、競技で勝利するという目的達成の流れからすれば逆行する ことになってしまいます。この逆行は、自分がしてはいけませんが、相手がする分には 大歓迎です。
 初心者同士の試合でよくみかけるのは、結構な枚数差が開いていたとしても、お手つきを きっかけとしての大逆転といった光景です。そういうわけですから、リードしていても 安心してはいけませんし、リードされてもあきらめてはいけません。「かるたの要諦」 の第9条にあるとおり、人は間違えるもので、 特に初心者は初心者らしく間違えるものですから、相手はともかく自分は、勝敗が 決まるまで、集中力を切らさないように心がけるようにしましょう。
 心がけるようにしましょうといっても、言われてできれば誰も苦労はしません。 まずは、「努力」ということです。

試合にはリラックスしてのぞみましょう

 ただでさえ、試合は緊張するものです。「緊張するな」というほうが無理です。でも、自分と同じように相手も緊張していると考えましょう。また、相手も不安感を抱いているんだと想像してみましょう。自分のネガティブな感情は、相手も同様に持っているんだと思えば、少しは気が楽になりませんか?
 私がみなさんに贈れる言葉は、「リラックスしてください。そして、試合を楽しんで ください。」です。
 個人戦は、トーナメント戦です。武運つたなく負けてしまったら、仲間や他の勝ち 残っている人の試合をみて楽しんでください。そのときには、楽しむとともに 学ぶことは何かを考えてみてください。
 自分自身が試合で取り続けられればよいのですが、決勝までいけるのはトーナメント 枠から2人だけです。自分が敗退しても、試合の場に身をおいて、試合の雰囲気に 身体と心を慣らしておくようにしましょう。

デビュー戦がまだ先の皆さんへ

 さて、最後に同期開始の仲間にデビュー戦で先を越されてしまった皆さんへのメッセージを伝えます。
 決してあわてることはありません。皆さんにもデビュー戦の時が来ます。しかし、同期の仲間が入賞したり、上のクラスに昇級したりするとなんとなく自分が出遅れた感じをもってしまいます。また、今まで練習で互角だった相手が、試合の経験を積んで、自分より強くなっていくのを目の当たりにすることもあります。でも、あわてることはないのです。
 同期の中の切磋琢磨というか、それぞれの成長競争は始まったばかりです。自分自身の固有のスピードで上達していくものです。先を越されたと思えば、時間をかけて追いかければよいのです。
 競技かるた人生は始まったばかりです。長いスパンでとらえていきましょう。当面は、半年とか1年くらい先を見越しておけばよいでしょう。生涯かけて、競技かるたにかかわるならば、十年・二十年の単位で考えてもかまいません。
 あわてたり、あせったり、あげくのはてにはあきらめたり、やめてしまったりというのはもったいないことです。
 あせるあまりに、練習のしすぎで、身体をこわしたり、学業等に悪影響を及ぼすようなことがあってもいけません。適度にバランスを保ちつつ、一歩一歩前進していけばよいのです。
 くりかえしますが、決して、あせったりあわてたりしないでください。

 今回の手紙は役に立ったでしょうか?
 デビュー戦をはたしたあと、感想などを聞かせていただければ幸いです。また、練習の時にお会いしましょう。
草々


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