新・後輩への手紙(V)
Hitoshi Takano NOV/2010
競技かるたの要諦“十箇条”(解説3)
前略 おまたせしました。それでは、「競技かるたの要諦」“十箇条”の解説の
最終回をお届けします。
当然、最後ですので「第八条から第十条まで」となります。
まずは、十箇条のおさらいから…
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「競技かるたの要諦」
第一条 競技かるたは、対技者との手談と心得るべし。
第二条 読手の呼吸と自己の呼吸の間を体得すべし。
第三条 競技かるたの目的は、対技者より先に自陣札を絶無にすることにあると認識すべし。
札を取ることは目的にあらず、手段なり。
第四条 攻撃の重視は札を送る利を求むることと心得るべし。
第五条 定位置は方便と心得るべし。
第六条 競技かるたは、「先の先」のみにあらず「後の先」を忘るべからず。
第七条 目手一体と心得るべし。
第八条 確率論は厳然として存在するものなり。閃きに頼るべからず。
第九条 人は間違えるものなり。決してあきらめるべからず。
第十条 用捨在心を肝に銘ずべし。
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第八条 確率論は厳然として存在するものなり。閃きに頼るべからず。 **English**
勝負事の世界ではよくある話だが、「閃き」や「カン」があたって勝ったとか、
「閃かなった」ので負けた、「カン」がはずれたので負けたなどというのを聞かない
だろうか。
基本的に、場にある札について、次に読まれる確率はどの札も同じなのである。
確率論は厳然として存在し、それがゆるぐことはない。そのことを承知しておかないと
「閃き」やら「カン」というものに不用意にふりまわされることになると思う。
確率という現実を目の前にして、それを承知で、自分なりに取る札(攻める札、守る札)
に優先順位をつけるのは競技者の自由である。
「閃き」や「カン」ではなく、競技における確率と自分なりの戦略・戦術を信じる
べきである。
第九条 人は間違えるものなり。決してあきらめるべからず。 **English**
これには、ふたつの意味がある。ひとつは、自分に対しての「いましめ」であり、
ひとつは自分に対しての「励まし」である。
いくらリードしていて楽勝ムードでも、人は―すなわち自分は―間違える可能性を
持った存在だから、お手つきをしないよう注意しなければいけないし、勝負を決める
まで気を抜いてはいけないということである。
また、それでミスして追い上げられても、自分のミスで自暴自棄にならずあきらめず
に勝ちきるようにしなければならないということでもある。
逆に自分が大きくリードされていて敗戦ムードが漂っていたとしても、人は―すなわち
相手は―人間である以上間違える可能性を持った存在だから、取りそこないやお手つきを
してくれるかもしれないので、自暴自棄にならずにあきらめずに相手のミスをついていき、
逆転に向けての努力はやめてはいけないということである。
人はミスをする存在である。そうであるならば、、たとえ自分もミスをする可能性が
あったとしても、ミスをしやすいような配置や札の送りを果敢にすべきである。
あきらめてしまったら、それで終わりである。敵か自分かどちらかの持ち札が絶無に
なるまでは、勝利の可能性は残っていることを忘れてはならない。
「用捨在心」という言葉については、TOPIC(1999年9月)
で、紹介しているので、そちらを参照してほしいが、簡単に言うと「何を用い何を
用いざる(捨つる)かは、ただ、自分の心のうちにある(自分の決めたことだ)。
(―だから、人からあれこれ言われてもかまわない―)」ということである。
何といっても、藤原定家の言葉であるところに重みがある。
競技かるたは、その競技の性質上勝敗を競うものである。勝負事で大事なのは、まさに
この「用捨在心」の気持ちではないだろうか。
試合の途中で、前のことを思い出して後悔などしてはならない。また、負けたとしても
人のせいや環境のせいにしてはならない。すべては、競技者としての自分自身の「用捨
在心」の判断・決断の結果なのである。
自身の決定を信じ、それでだめならやむをえないくらいの気持ちで試合に臨むべき
である。
「用捨在心」の言葉を肝に銘じて、競技に臨んでほしい。
さて、これで「競技かるたの要諦」十箇条の解説は終了です。
これを読まれた皆さんの何かの参考になれば幸いに存じます。
では、また、練習場でお会いしましょう。読んでいただけたら、感想などを聞かせて
ください。
草々
競技かるたの要諦"十箇条"
<解説>第一条から第三条
<解説>第四条から第七条
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