また・後輩への手紙(VII)

Hitoshi Takano   Jul/2016

真の「守りかるた」を考える



前 略 新入会員が30人以上入って、昨年度から活動している2年生諸君は指導や2会場運営で苦労されているようですね。
 でも、これだけ多くの新入生がほとんど欠けずにこの時期も練習に来てくれていることは、今までにはなかったことです。みなさんが苦労されていることは、いずれ報われることとなると信じています。

 先日、ある2年生から私の「歌留多攷格」を読んだという話を聞きました。 その中でも「守りかるた」の章が参考になったというのです。なぜなら、「守りかるた」というものについて、その特徴などが書かれたものを読んだことがないからだということでした。
 私のHPには、「守りかるたに関する一考察」とか、 「攻めカルタ」・「守りカルタ」の相違とか、はっきりと「守りかるた」について書いた記事もあれば、自分の「守り」体験とそこから気づいた考え方などを紹介した記事もあります。ぜひ、読んでいただきたいものだと思います。

 「守りかるた」のことを読んだり、聞いたりしないのは、なんと言っても、先輩たちが「攻めかるた」を強く指導するからにほかなりません。「攻め」を教えているのですから、「守り」を教える必要はないのです。 しかし、もし、そういう「守りかるた」の選手と対戦したときに、その性質を知らなければ対策も立てられません。「敵を知り、己を知れば、百戦あやうからず」の言葉もありますが、「攻めかるた」に対抗する「守りかるた」を知らなければ、とまどっているうちに相手の術中にはまってしまうこともあるのです。
 そういう意味で、拙著「歌留多攷格」を読んだ2年生の参考になったという感想は、書いた私としても嬉しいですし、非常によい目のつけどころといえると思います。

 また、今年入会した高校時代に競技経験のある1年生は、「私は、先輩から守りかるたといわれるので、攻めかるたになるように攻めを意識して取っています」ということを言っていました。
 はたして、この1年生は真に「守りかるた」だったのでしょうか?

 実は、私も「守りかるた」と言われますが、決してそうではありません。TOPICに記した 「昭和のかるた」の記事を読んでいただければわかるように、考え方や基本スタイルは「攻めかるた」で攻められないから「守り」に見えるということなのです。
 実際、昨今「守りかるた」と言われている人の多くは、この「攻め」が強くないから自陣で取ることが目立つというタイプだと思います

 「歌留多攷格」を書いたの20年以上前ですので、最近の考えもふまえて、真の「守りかるた」はどういうものか考えてみたいと思います。前提としては、ぜひ「歌留多攷格」の第II部の第4章をお読みいただければと思います。できるかぎり、重複しないように書いていきたいと思います。
 「攻めかるた」のメリットは「自陣から敵陣に札を送る『利』を得る」ことにありますが、「守りかるた」のメリットはいったいなんでしょうか。
 それは「近さの『利』を活かす」ことではないでしょうか。
 競技かるたのルールでは、セーム(同時に出札に触れるケース)の場合は当該札を自陣で持っていた選手の取りとなります。このルールに疑義をはさむ人もいます。「攻めにきたほうが守っているほうより、より長い距離を移動してきているのだから、それでセームなら攻め手の取りにしてもいいのではないか」という理由です。私もこの理屈に一理ありと思っています。とはいうものの、ルールはルールです。なぜ、こういうルールになったかはわかりませんが、セームに関しては、近さの利がある守りが有利なのです。
 攻撃してくる相手の手が先に動き出しても、「守り」の場合「後の先」で自陣札を取ることができます。これも距離の近さのゆえです。
 しかし、自陣を取るという「守り」のスタイルにおいて「利」があるとはいえ、守ってから攻めるという動きには攻めてから守るよりも、身体の動きに無理な負荷がかかります。自陣を守ってから敵陣を取りにいく手の動きのパターンを実際にやってみればわかるのではないでしょうか。縦の手の動きは、攻めてから守ったほうが、守ってから攻めるよりも重心の移動がスムースにいきます。スピードものります。斜めの動きはどうでしょうか。「自陣右」を守ってから「敵陣右」を攻める斜めの動きよりも、「敵陣右」を攻めて「自陣右」に戻る斜めの動きも、攻めて戻る動きのほうが明らかに楽です。
 もう一つの斜めの動きである「自陣左」と「敵陣左」の場合はどうでしょうか。
 攻めて戻る動きの時、敵陣まで手が出きってしまうと戻りが難しくなります。身体が伸びきってしまったらなおさらです。せめて、ハーフウェイ、すなわち、上段くらいまでしか手がでていない時であれば、ワン・ツーのタイミングで戻りもできるのでないでしょうか?
 このケースだけは、「自陣左」を守ってからの「敵陣左」への攻めの身体の動きが、それほど無理なくできるのではないでしょうか。「敵陣左」を薙ぐような動きになります。この動きに「クロス・ファイアー」と名付けた選手もいました。
 4パターンのうち3+αパターンが、攻めてから戻ったほうが身体動作に無理がないのです。
 これは、「守りかるた」にとっての大きなビハインドと言ってよいのではないでしょうか。
 現在の「かるた界」を席捲している「攻めかるた」は、相当に強烈な攻めを身上としています。中途半端な守りは、敵の攻めによって軽く破られてしまいます。このような時代には、以前「歌留多攷格」で書いたような友札をわけるような送りをする「守りかるた」は成立しません。上記の身体動作のパターンの不利が大きく影響するからです。
 もし、この現代に真の「守りかるた」を選択するならば、それは、「感じ」が特別にはやい選手のみ可能性を持ちます。ちょっとやそっとはやいくらいでは、自陣は攻撃にさらされ崩壊してしまいます。「堅守」は相当な「感じ」のはやさを持つ選手でないとできません。
 そういう選手が、友札をわけずに決まり字の短いままで自陣で守るようなかるた、一字決まり・二字決まりを自陣で守り、できるだけ同音を自陣に集中させるような展開でお手つきのリスクを最大限減らして守るかるたを目指すのでなければ、現在の「攻めかるた」には対抗できないと思うのです。
 三字のわかれなどは、すぐに敵陣に送ってくっつけてしまう。お手つきしそうな三字の単独札は敵陣に送ってしまう。こうした発想で「守りかるた」を構築するしかありません。
 この「守りかるた」で、「攻めかるた」の攻撃を防ぎきれば、真の「守りかるた」が実現することでしょう。

 しかし、こんなに「感じ」が早ければ、それは「攻めかるた」に活かすべきです。
 私の知っている選手にはそれこそ特別に「感じ」の早い選手がいました。友札をわけて、敵陣を攻める「攻めかるた」でした。ただ、この選手は、お手つきがやたら多かった。30枚以上取って勝つのが普段の勝ちパターンでした。この選手は、スタイルを変えることはありませんでしたが、このスタイルでも慶應の法学部在学中に学生選手権でA級優勝を果たしています。もし、真の「守りかるた」を実践していたら、お手つきは減り、敵の攻撃は封じ込めるというようなスタイルになっていたように思いますが、「守りかるた」的な友札を相手陣にくっつける送りをするだけでも、お手つきが減りもっと楽に勝つことができたのではないかとも思います。自分自身がお手つきも含めて自分の30枚以上取って勝つかるたを楽しんでいたようにも思うのです。実際にどうだったかは聞いてはみませんでしたが、おそらく間違いないでしょう。
 他にも、「うつしもゆ」などをわけずに自陣で守って取る選手もいました。「感じ」の早いタイプの 「守りかるた」と言っていいでしょう。好きな札は自陣で守って取るタイプでもありました。 高校1年でかるたを始め、県外の大会には出場しなかったため、高校2年の静岡大会でのC級ではすべての試合20枚差以上で優勝したように覚えています。こちらは、お手つきはしないタイプの選手でした。この選手も、自分のかるたスタイルは変えずに、好きな札を自陣で守って取ることを楽しんでいるようでした。
 上記のふたつの事例は、どちらも「感じ」の早さは、通常「感じ」が早いと言われる人よりも早いという事例です。異なる点はかるたのスタイルであり、「感じ」以外の点での共通点は、自分のかるたを楽しんでいたということです。どんなスタイルであれ、これは大事なことだと思います。

 さて、そろそろ「守りかるた」についてまとめましょう。

 (1)  「攻めかるた」全盛の現代のかるたにおいて、通用すると思われる真の「守りかるた」は、「感じ」の早さが飛び抜けていないと難しい。

 (2)  札の送りなどの基本的考え方は「攻めかるた」を原則としているものの、「感じ」が遅いゆえに敵陣を攻める前に決まり字まで聞こえてしまい、距離の近さの「利」で自陣が取れてしまうことで「守りかるた」と呼ばれてしまう人たちは、真の「守りかるた」ではない。

 (3)  どんなスタイルでも、自分が選択した「かるたスタイル」を楽しむ気持ちの余裕が大切である。


 いかがでしたでしょうか?

 「自分の目指すかるたの選択をし、そのための努力をし、その中から自分の適性を見つけ、自分の短所を補い、長所を伸ばす。そして、自分の競技スタイルを楽しむ余裕を持つ。」
 これが、大事なのだと思っています。自陣の札を守って取ることに楽しさを見出した選手への手紙も過去に掲載しています。(→参照) これなども何かの参考になるかもしれません。
 まずは、「楽しむ」ことです。
 それでは、また、練習場でお会いしましょう。
草 々


次の手紙へ        前の手紙へ        関連Topicヘ

手紙シリーズのINDEXへ


トピックへ
私的かるた論へ
慶應かるた会のトップページへ
HITOSHI TAKANOのTOP PAGEへ

Mail宛先